174653人が本棚に入れています
本棚に追加
わたしが雪村くんの失踪を知ったのは、土曜の朝だった。
担任の榊先生から電話でその事を告げられ、わたしはしばらく、言葉を発することも出来なかった。
『置手紙があったから、自分の意志で出て行ったんじゃないかとは思うんだが、……どこか、雪村が行きそうなところに心当たりはないかな?』
混乱する頭の中で、わたしは何とか問いの意味を理解しながら掠れた声で答えた。
「……いえ、わたしは……何も……」
『そうか』
『あの、……万優架――坂口さんなら、何か知ってるかも」
『一番に連絡したよ。やはり心当たりはないそうだ。』
先生の声は、深く沈んでいるように聞こえた。
サッカー部に籍を置いていた雪村くんは練習をさぼりがちだったけれど、手がかかる分、榊先生がいつも気にかけていたことを、私は知っていた。
沈黙した先生の後ろで、小さな子供の声と、妻らしき女性の声がする。
休日に、家族との時間まで使って、先生って大変だな、と、わたしはそんなことをぼんやりと考えていた。
先生との電話を切った後、万優架に連絡を入れたが、携帯には出てくれなかった。
代わりに、一通のメールだけが送信されてきた。
『いろいろごめんね。俊輔のことは、心配しないでね。ちゃんと理由があってのことだから。
それから…私も、明日からしばらく学校を休みます。
今は何も話せません。本当にごめん。何も聞かないでくれるとありがたい。
放送部のこと、よろしくお願いします。迷惑かけて、ごめんね。』
「万優架、…榊先生が家にまで行ったのに、出て来なかったって…。」
「うん、そうみたいだな。榊先生、めちゃめちゃ凹んでた。」
春山先生は難しい顔で少し考えてから、目の前の紙をぺらりとめくった。
「実はさ。これの件で、お前に聞きたいことがあったんだ」
その用紙を見て、内心首をかしげる。
……これは……。
「これが……どうかしたんですか」
それは、金曜日にわたしが読んだ原稿だった。
右上に「追加」の赤い文字が入った、4枚目の用紙だ。
最初のコメントを投稿しよう!