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「金曜日のことだけど。 雪村の奴が無断で早退した話、聞いた?」 「……はい。昼休みに呑気に皆と話してたのに、急にそわそわし始めて慌てて帰って行ったって……」  あの日、『恋パラ』の放送を終えて教室に戻った時、すでに雪村くんは帰った後だった。 「その時の状況を、その場にいたやつらに詳しく聞いてみたんだけど。 ……どうやら、お前がこの原稿を読んだ直後、らしいんだ。 雪村の様子がおかしくなったのは」  わたしは驚いて先生を見た。 「お前さ、この用紙、どうした?」 「それは……。あの日、先生がくれたクリアファイルに、後から追加されていたんです」 「誰が入れたのかな」 「わかりません。いつの間にか……。 わたし、田辺くんが入れたのかと思って、何も考えずに読んじゃったんです。 でも、後で放送部のみんなに聞いたら、誰も知らないって……」  思わず声が詰まる。  わたしの顔を見て、先生がやばい、という顔をした。  自分の意志とは無関係に、両目からハラハラと涙が零れ落ちて来る。 「ごめんなさい……。わたし、確認もしないで勝手に……」 「いや、違うよ椎名。……お前がどうのって話じゃない」  わたしは、必死で唇を噛みしめた。    とにかく、今すぐ涙を止めなきゃ。先生が困ってる。  今は、泣いてる場合じゃないんだから――。  そう思えば思うほど、余計に涙が込み上げて来て、……わたしはとうとう嗚咽を上げ、本格的に泣き出していた。  先生が椅子から立ち上がり、歩み寄って来る気配がした。  わたしのすぐ傍にしゃがみ込み、こちらを見上げる。 「……泣くなよ。悪かった」  真剣な表情で顔を覗きこまれると、さらにどうしていいか分からなくなる。 「……ごめんなさい……」  わたしはハンカチで顔を隠し、何度もそう繰り返した。  万優架がわたしに何も話してくれないことへのショックや、雪村くんを心配する気持ちや、――様々な感情がごちゃ混ぜになり、涙に姿を変え、止め処なく溢れ続ける。
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