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「ひとり?一緒に帰ろうよ」 「え。……先輩、部活は?」 「あー……。聞いてる?よな。雪村俊輔の」 「あ、はい」  先輩は自転車を下り、わたしに並んで歩きはじめた。 「その件で榊がいっぱいいっぱいでさ。今日は自主トレだけで、解散」 「そうですか…」 「みんなに心配かけて、なにやってんだかな、あいつ」  先輩は、出来の悪い弟の話でもするように、困った顔で呟いた。 「そう言えば、俊輔の彼女も学校休んでるんだって?」 「そうなんです。これから、二日分のノートを届けに行こうかと思って」 「そうなの?――じゃあ、俺も行こうかな」 「え」 「俊輔の彼女なら身内同然だし、心配だから。 ……なんて、ホントは萌ちゃんと一緒にいたいだけなんだけどねっ」  先輩のにっこり笑顔に、わたしは何も言葉を返せず、赤くなって俯いた。  そんな風にストレートに言われたら、……何て答えていいか……。  門を出たところで、先輩は自転車に跨がった。 「乗って!萌ちゃん!」  キラキラの笑顔がまっすぐすぎて、正面から受け取るのが難しい。  黙っていると、先輩がわたしの手を取った。 「大丈夫だよ。友達だって二人乗りくらいするだろ」  それが思いがけず沈んだ声だったので、わたしはハッと顔を上げた。  先輩は少し悲しそうな笑顔を浮かべ、手を引いて後ろに促した。 「駅まですぐだから。――ほら」  そんな顔されたら、断れない。  わたしはおずおずと後ろの荷台に座った。  先輩がわたしの手からひょいとカバンを取り上げ、前かごに収める。 「しっかり掴まって。――行くよっ!」  慌ててダッフルコートの端を掴むと、先輩はいきなりぐっと漕ぎ出した。 「――きゃっ!」  思わず悲鳴を上げ、目の前の背中にしがみつく。 「よっしゃ、成功ーーー!」  先輩は半分こちらに顔を向け、いたずらっぽく笑った。  ぐんと漕ぎだすと、冷たい風が火照った頬を冷やす。  二人乗りで坂を下りながら、――あの日うまく想像出来なかった場面が、いとも簡単に実現してしまった事に気付いた。
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