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正直、ショックだった。
事情は話せないとしても、わたしになら、せめて顔くらいは見せてくれると思っていたのに……。
軽く考えすぎていたのかもしれない。
2、3日もすれば、万優架はまたあの元気な笑顔で登校して来ると、心のどこかで期待していた自分の呑気さが、今は腹立たしい。
万優架がわたしと会うのを拒否したという事実も単純に悲しかったけれど、それよりも、そこまで万優架の状況が深刻であることに、わたしは衝撃を受けていた。
何か、わたしにしてあげられることがあれば……。
万優架の部屋を見上げた時に見た、頑なに閉ざされたカーテンを思い浮かべていると、板東先輩が「あれっ」と声を上げた。
「――フジコじゃん」
先輩の声に顔を上げると、西日に照らされた商店街の煉瓦道に、こちらに向かって歩いて来る女性の姿が見えた。
――峰村今日子(みねむら・きょうこ)先生だ。
こちらに気づき、少し眩しそうに目を細めながら手を振る。
遠目にもどことなく色香を感じさせる『イイ女』オーラを発しながら。
わたしの胸に、じわりと苦い思いが広がった。
「もしかして、坂口さんちの帰り?」
峰村先生は、いきなりそう言って声を掛けて来た。
わたしが黙っていると、板東先輩がワンテンポ遅れて「あ、はい」と答える。
「会えた?」
「いえ。具合が悪いからって、部屋に閉じ籠ってるみたいです。峰村先生はカウンセリングですか」
「そ。昨日も榊くんと来たんだけど、まだ本人には会えてないのよね」
うちの担任を『榊くん』と呼ぶ峰村今日子先生――通称『フジコ』は、大きな胸を強調するように低い位置で腕を組んだ。
先生の胸元につい目を奪われている先輩の横顔をちらりと見てから、わたしはフジコ先生に言った。
「スクールカウンセラーって、木曜日だけのお仕事じゃなかったんですね」
ちょっと、棘のある言い方になってしまったかもしれない。
けれど彼女は特に気にした様子もなく、困ったように微笑んだ。
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