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「いいわね、青春て。……35を超えると、遠すぎて思い出せないもんだわ」  先生はあはは、と笑って、わたしの横をすっと通り過ぎた。  お風呂上りのような香水の香りが微かに残る。  わたしは、その場で俯いて立ち尽くしていた。  …あの人には、勝てない。  …どんなに頑張っても、…敵うはずがない。  わたしはフジコ先生の方を振り返らずに、ゆっくりと歩き始めた。  先輩も、慌てて横に並ぶ。  両側を商店に挟まれた狭い道を、駅が見えてくるまで、わたし達は無言で歩いた。 「……35歳過ぎって、……一体、いくつなんだろね。フジコ」  先輩が、小さな声で呟く。  それには答えず、わたしはそっと先輩の手を取った。  驚いてこちらを見る先輩を目の端に映して、前を向いたまま歩き続ける。  指を絡めると、先輩も戸惑いを振り払うかのように、少し強めにわたしの手を握り返した。  前方に見えてきた駅舎のガラス窓に、背後の夕日が反射している。  今日も、オレンジ色の太陽が眩しい。  夕焼けより紅く頬を染めた先輩の横顔を見上げると、ちくり、と胸が痛んだ。      ――私は、最低だ。
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