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―シェリービーン―
「まったく、お前はいつまで飛び回っているつもりなんだ。」
電話越しに聞こえる呆れ声に、私は笑って自慢の長い金髪を耳にかけた。
マンハッタンの街中、ピンヒールを鳴らしながら歩く私に、すれ違う人は必ず目を留めるのが分かる。
私は彼らを挑発するようににっこりと微笑んでみせた。
色めき立つ男共をしり目に、颯爽と街を歩いていくのが小気味いい。
電話の相手――義父のジョージは続けた。
「お前は頭がいいから心配なんかしてないが、たまには一緒に過ごさないか。
そうだ、シェリーの行きたがっていたスペインにでも旅行に行こう。
それともサンドラの手料理が食べたいかな?」
昔からちっとも変わらない。
その優しい言葉に私は断る台詞を見失う。
「うーん、そうねぇ。でもスペインは行ってしまったし、パパは忙しいじゃない。」
私は曖昧に濁す。
今も仕事中なのだろう。後ろに会議の声が聞こえる。
忙しいはずの社長の私用電話を社員はどう思っているのやら。
用事は帰って来い、だけではないだろうけど。
「なら帰っておいで。
サンドラがボーイフレンドの話を聞きたがっていたよ。」
前言ってたボーイフレンドはとっくに別れていた。
だけど、そんなこと言ったらパパの会社の人を紹介されるに決まっている。
私はふふふと笑ってごまかした。
「もし今恋人がいないなら、ぜひともシェリーに紹介したい人がいるんだけど、どうかな。帰って来てくれないか?」
ああ、やっぱり。
これが電話の目的だろう。
私は苦笑をかみ殺した。
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