プロローグ

5/15
前へ
/329ページ
次へ
私がこれ以上どう断ろうかと考えあぐねていると、ピッと仕事用の携帯電話の着信音がした。 メールが来たらしい。 そのタイミングの良さに私は笑ってしまった。 「あっ仕事の連絡が来ちゃったみたい。 また連絡する。 愛してるよ、パパ。」 私がそう言うと、彼は唸ったが観念したらしい。 やれやれ、と困ったような笑い声が聞こえた。 「愛してるよ、シェリー。」 そう告げて名残惜しそうに電話は切れた。 ジョージの穏やかな声の代わりに流れてきたツーという単調な電子音が耳につく。 それは、私が日常から非日常へと入る合図のよう。 私が仕事用の携帯電話のメールフォルダーを開くと、見慣れた指令文が目に入った。 この間、潜入ミッションを終わらせたばかりなのに人使いが荒い組織だ。 まあ、仕方ない。 私の仕事は他人に取って代われないものだから。 私は何食わぬ顔で画面をスクロールしていく。 今回のターゲットは首飾りらしい。 添付されていた写真の画像を開いて、私は端正に整った眉を寄せた。 なんだか頭に引っかかるデザインだ。 どこかで見たのだろうか。 だけど、それはそのうち思い出すだろう。 そして、指令文の最後、お決まりの文句が躍り出る。 決まって、こう。 「怪盗諸君、速やかに盗み出してくれたまえ。健闘を祈る。」 私は携帯電話をパタンと閉じた。 また仕事だ。 スリルたっぷりの、甘い魅惑の香るお仕事。 表の顔は、愛らしく誰もが心を奪われるブロンドの美女。 でも、私には裏の顔があるのだ。 ――それは、家族に言えるわけない。 だって、巷を騒がす神出鬼没の怪盗Gの正体なんだもの。
/329ページ

最初のコメントを投稿しよう!

226人が本棚に入れています
本棚に追加