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「俺も見たぜ」
ベッキーの怒鳴り声の隙間から、げびた笑い声が聞こえた。
声の方を見ると、奥の席で小汚い格好のオッサンがウィスキーをちびちびとなめている。
酒場ではよくある光景だ。
彼は俺と目が合うと、赤らんだ顔をいやらしく歪めた。
「イイ~女だったよォ、ブロンドで胸もデカくてなァ~。」
ひひひ、と笑う。
ベッキーが客である彼にも躊躇なく嫌悪の眼差しを向ける。
ブロンド…?
俺は周りの喧騒さえ消え、記憶を揺さぶるワードに止まった。
俺が知ってるブロンドの女はただ一人だ。
そう、たった一人の…
ガタン!
俺の思考を遮るように、大きい音と共に現れたのはジョッキ一杯になみなみとつがれた水。
俺がはてな顔で見上げると、彼女は俺の言葉を封じるように怒鳴った。
「それで目を醒ませ、クソヤローが!」
ベッキーはそう叫ぶと、まだ客もいるだろうに、椅子にどっかと腰を下ろしてタバコを吸い始めた。
イライラと、せっかちに吸って吐いてを繰り返す。
よく分からない。
だが、どうやら一波乱ありそうな予感だ。
内心ざわめくカンを持て余しながら、俺は大人しく出された水をすすった。
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