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「ねえ。私を殺して……」
焼けていく故郷を背に彼女はそう言った。
舞い散る火の粉が彼女の顔をホンノリと紅く染め上げる。
「聞いてるの?」
しばらくぼんやりと彼女の顔を眺めていたら、彼女は顔をしかめながら言った。
「あぁ、聞いてるさ」
当然だろ?
そう続けるハズだった言葉がグッと詰まる。
彼女の頬を一筋の光が滑り落ちたの見たからだ。
「……お願い。早く」
掠れる声で必死に懇願する彼女の表情が見てられなくなり視線を逸らす。
「お願いだから私を……早く、私を殺して!!」
彼女は近づいて来て僕の胸を両手で叩く。
泣きながら何度も、何度も叩く。
「無理だ。そんなこと出来ないよ」
僕の声で彼女は肩がビクッと反応し手が止まる。
「なんでよ!?そんなわけ無いじゃない!!だって、だって貴方は……」
「……そうだ。僕は魔王だ。だけど……いや、だからこそ君を殺すことは出来ないよ」
彼女は泣き叫びながらその場に力なくしゃがみこんだ。
「……ごめん」
ホントは違う。魔王だからじゃなくて彼女を殺したく無いから殺さないんだ。
だけど、彼女はそれを望まないから嘘をつくしか無かった。
「なんでよ……私が貴方に殺されれば魔族は街を襲わないんでしょう!!貴方もあの街を守りたい……そう言っていたのに」
彼女は僕にしがみつきながら懇願し続ける。
「……」
君の事が好きだから。言ってはいけないその言葉が言いたくて堪らない。
全てをぶちまけてしまいたい。
そして彼女を抱き締めたい。
だけど、どうしたってそんなことは出来ないんだ。
だって僕は……
「魔王だから……」
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