序章

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 間もなく痕跡は発見された。何十メートル近く続いている、何かに潰された草の道。間違いなくあのトラックもどきが通った跡だ。 「あれか」  勿論そのラインを辿れば、お目当ての段ボールハウスも発見できる。  おれから見て右側、約20メートルの距離にそれはあった。そして、その近くには老人の姿もある。  もしかしたら話が聞けるかもしれない。  倒されたまま起き上がれないでいる草どもを踏み締め、欠伸をしながら段ボールハウス脇に腰を下ろしている人物に近付く。  が 「こ、ここには何も無っいぃぞ?」 「……は?」  いきなり発せられた爺さんの声のせいで、つい間の抜けた声が漏れてしまった。が、あの爺さんの喋り方といい額に見える玉のような汗といい、そして震える目線が全てを物語っていた。  ベタ過ぎて呆れそうだが、それでも本人がそれを必死に隠そうと必死こいてる姿が面白くって、おれは腹を抱えて大笑いしてしまった。  数分後、酷い咳と爺さんに蹴られた腰の痛みに苛まれながら、おれは涙を浮かべて爺さんに聞いた。 「あの、昨晩この辺でトラックっぽいものを見たって聞いたんですけど、ご存知ありませんか?」  
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