4章

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「そのまま没落貴族として生きていければよかったんだけど、父は男爵という名前がどうしても大事だったみたい」  懐かしむように夕焼けの空を見上げると、何処かから逃げてきた椋鳥の群れが頭上を通り抜けた。 「男爵家として再び花を咲かせるためには、それなりの功績と財産が必要と父は考えた。自分は必死に仕事をこなしていて、頑張っているんだなって思っていたけど、父の理想は娘をも巻き込んだのよ」 「巻き込んだ?」 「そう。ご覧のとおりっていうか自己紹介の時言ったとおり、私はまだ中学生。なのに父は私に政略結婚するよう言ってきたのよ」  当時を思い出して、忌ま忌ましさをそのままに吐き出す。隣の百花も、政略結婚という言葉が出て表情を強張らせた。 「相手は成金の息子で、向こうもまだ高校生だったわ。信じられる?他人の息子に爵位が受け継がれることを出汁に、まだ義務教育を終えてもいない娘を売り物にするような真似をしてくれたのよ?!」 「あぁ……」  怒りを抑え切れずに怒鳴ってしまったことを謝り、私は続ける。 「母も、かつての華やいだ生活を取り戻せると乗り気だったわ。つまり頼りになる味方はいなかった」 「そうなんだ――。お金持ちも大変なんだね」 「父は妄念に取り憑かれていたのよ。そして母は金という偶像を求めた。つまり私は、両親の欲望を叶えるための道具に成り下がっていたの。  それが嫌で、昔仲の良かったメイドや執事のところを転々と逃げ回りながら、あるメイドの計らいで日本まで逃げてきたの」  
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