diary

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とある水曜日にそれは発覚した。 最近調子が悪かった僕は、心配した親に連れられて病院へと向かった。 顔を強ばらせたお医者さんは僕達に言った。 「癌の末期症状です。 ……すぐに、化学治療を行いましょう」 その声は平坦で、顔と似合わなかった。 だってお医者さんの顔は、僕よりも辛そうだったから。 そんな第三者の気分でいながら、頭に浮かんだのは恋人の君のことだった。 入院することになる僕は、きっともう外で君に会えなくなる。 会えたとしてもこの病院だけだ。 「デート出来ないのは嫌だなぁ……」 呟いた僕に、病院に来てから笑わなくなった母がようやく笑ってくれた。 あぁ、両親にも悲しませてしまうのか僕は。 (そして君も……) 悲しんでしまうのだろうか。 入院準備をする為に帰る母に、少し我が儘を言った。 「スケッチブックと色鉛筆、あとノートを持ってきて欲しいんだ」 休み時間に描いていたのを君が褒めてから僕の趣味になった絵。 趣味だから美術品みたいに綺麗じゃないけれど、君が笑ってくれるように沢山描こう。 「ノートはどんなのが良いの? 無地?」 「ううん。 大学ノートでお願い」 ノートは日記帳にするつもりだから。 普段日記を書く習慣のない僕だけど、なんとなく書こうと思ったんだ。 入院して3ヶ月。 髪が抜け始めた。 吐き気は少し前に収まったけど、これはショックだ。 事前に化学療法のマニュアルを渡されていたから知ってはいたけれど。 枕に散らばる髪が、僕に今も入っている薬が強すぎることを知らせていた。 次の日僕は丸坊主にした。 お見舞いに来た君に、 『ハゲできてんぞ』 って、笑われたくないから。 やっぱり彼氏としてはカッコ良く見られたい。
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