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「僕はね。君が感想を言ってくれるのが嬉しかったんだよ」
唐突に言われた言葉に、彼を見る。
彼は窓に顔を向けたままだったけれど、ガラス越しで俺を見ていた。
重なった目に、鼓動が跳ねる。
気まずいのに、確かに気まずいのに、彼の目が強くて逸らせない。
その目から逃れたくて、何か言わなければと口を開いたものの音になることはなくすぐに閉じて終わった。
「あの物語に出てくる主人公達はね、僕と、僕の親友をモデルにしているんだ」
「……お前と、親友?」
「そう、僕と、3歳の頃から一緒にいた幼馴染がモデル」
「っていうことは、お前、男と付き合っていたのか?」
驚愕の事実に声が大きくなる。
いくら一人部屋とはいえ、実家なのだから誰に聞かれるか分からないというのに、頭からその事は抜けていた。
彼はゆっくりと頭を振った後、眉を歪めて泣きそうな、不細工な顔で笑った。
「ただの妄想だよ。だってアイツは僕がそういう目で見ていることすら知らないからね」
「……そっか」
「あぁ。あの話は僕がアイツとしたい話で、アイツに取ったら気持ち悪いだろう僕の願望だったわけだ。
本当だったら誰にも見せるつもりはなかったよ。でも、ずっと一人で秘めることに疲れたんだ。
誰かに共感して欲しかった。
この苦しみを、理解してくれる人が欲しかった」
「……」
「君に見せたのは、君が否定しないことを知っていたから。卑怯だと思う?」
「……なんで、話そうと思ったんだ?」
「もう、書かないからかな」
そこで漸く、彼が俺のおざなりな労いに苦笑したのかを理解した。
「……」
なんで動かずに書き物にして発散していたんだ。なんて、無粋な事は聞かない。
普通なら、ここで彼を慰めるんだろう。彼を好きなら、彼の告白に胸を苦しめるんだろう。
けれど、俺は不思議な気持ちに包まれていた。
安著のような、寂しさのようなそれは、きっと達成感なんだと思う。
彼の中途半端な物語達が終わって、俺は読破出来た気持ちに囚われているんだ。
彼を変な目で見る前に、彼の読者だったことに心底安心した。
「なぁ、今度さ、何処か出掛けないか?」
「え?」
「脱小説記念ということで、さ」
「……うん。やっぱり、君に読んで貰って良かったよ」
嬉しそうに笑う彼に、俺はニヤリと笑ったのだった。
fin.
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