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目が覚めると目の前には木々が真っ赤に燃えている光景が五歳の子供の眼前に広がっていた。
自分の状況を再確認するように子供は周りを見渡す。
しかしその子供が見たものは、火、火、火、火。
東西南北、どの方角を見ても真っ赤に燃える火だけが幼い子供の目に映る。
孤独感と恐怖だけが幼い子供を容赦なく襲う。
「お、お父さん? お父さん…………どこ? ヒッ、ヒッ、ヒック。おどうざーーーーーーん、どご--? おどうざーーーーん」
子供は一生懸命に声を張り上げて最も信用のある人に助けを求めた。
しかし、子供のか細い声が火の外まで届くことはない。火によって作られる轟音によって声が外に届く前にはかき消されてしまう。
そうとも知らずに助けが来るのを信じてひたすらに子供は叫び続ける。
しかし、時間だけが過ぎていき子供に手を差し伸べてくれる人は現れない。
子供はそして体の異変に気がついた。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ。む、胸が痛いよぅ」
無知とは無力だ。
何百度もの火に囲まれた中で空気を大量に吸い込み、声を出していたら当然の結果だとわかる。
だが、五歳の子供にその知識はまだない。
「ゴホッ、ゴホッ」
子供は痛みからやがて声も出すことができなくなった。
声を出そうとする度に激しく咳き込む。
「僕、このまま死んじゃうのかな」
立っているのも辛くなり、とうとう仰向けに倒れ込んだ。
火柱が高く上がる中で子供はそのさらに上にある空を見た。そこに一つだけ光輝く星を見つけた。子供はその星に向かって必死に手を伸ばす。そして目を閉じた。。。。
その子供を高い木の上から自分の手で顔を押さえながら見ている人物がいた。
長身に長い髪を後ろで一本に結わいている。
「すまん、我が息子よ」
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