鬼のゆくえ

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  頭の中が、真っ白になる。 え? 父ちゃんに抱き締められていた。 あったかい、父ちゃんの体温。 小さい頃から慣れ親しんだぬくもり。 ……なのに。 ドキン。と、胸が高鳴った。 ドキドキが、大きくなる。   「すまなかった」 って、父ちゃんが離れて行く。 何が? 何を謝るの? 訳も判らず、離れそうな体を握り止める。 不安で、怖くて……。 「父ちゃん? 居なくならないでっ」 父ちゃんの広い胸に顔を埋める。   不安なのに、ドキドキは止まらなくて。 頭まで痛くなって来た。 不安で、痛くて、苦しくて。 「「羅刹?」」 蛇狼と白火が二人で私の名前を囁いた。 それで現実に意識が浮上する。   「居なくならないよ」 父ちゃんの声が頭上から優しく降って来た。   「俺は羅刹の父ちゃんだからな」 “父ちゃん”当たり前の事を強く言葉にした。 「うん。“父ちゃん”だもんね」 出逢った時から、父ちゃんは父ちゃんだ。   それは、当たり前の日常だ。 それが、私の……生きる術だ。    ......  例え、特別な繋がりが無くなっても。   「さあ、皆を起こしておいで」     .. 私たちは親子。 それは永遠に近い存在なんだから。   「うん! 判った」 父ちゃんは傍に居てくれる。 それが私にとって大事なんだから。  
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