鬼の事情

49/51
前へ
/191ページ
次へ
  それが、自分のルーツだから。 人間で在っては強すぎる能力は、周囲の人間をダメにする。 それを目にした者はひれ伏すか、手に入れようと足掻く。 戦いが起こる。 血を流し、多くが死んで行った。   隠す能力が欲しかった。 垂れ流れる力を止める能力が。   「桃太郎……何を考えている?」 俺はココロに蓋をした。 それは解れば不思議と簡単で。おじさんに覗かせるつもりはなかった。   「元気おじさん。このままではいけない」 こちらを見るおじさんの瞳が黄金と赤の斑に輝くと、人間らしい表情が消えた。   「このままが俺には心地好いんだ」 「羅刹と結歌と結愛を犠牲にする事が?」 「犠牲? 違うね。これは結果だ」   結果。         .... 空羅寿おばさんを犠牲にして生きている者達に罰を与えている。自分を含め、家族全員に。   「それは自己満足だ」   解っていて目を反らしている。 一時の憤怒で血を濁し、子どもらに当たり散らして……それは無言で、だが。無言が一番恐ろしい。   「“自己満足”?」   鼻で笑ったおじさんが、俺の胸ぐらを掴んだ。   「何が解る? お前に何が……」 「解らないよ」 誰にも他人の気持ちは解らない。 例えココロが読めたとしても、ただそれだけだ。   おじさんの手を自分の掌でそっと包み込む。  
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!

187人が本棚に入れています
本棚に追加