鬼の事情

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  「愛する事に答えなんてないんだから」   愛される事も然り。 おじさんの怒れる手は電気を帯びたみたいにピリピリとしていた。   「何をするつもりだ」 元気おじさんの赤く濡れた瞳を見つめる。 「“朱色の血”を抜くんだよ」 どうすれば良いのか知らない。 だけど、何故か上手く行く確信はあった。 触れた掌から雷力を流す。 予想通り、おじさんは抵抗する素振りを見せた。 だけど、ココロの奥底では解放されたがっていたから逃げないのも解っていた。   掌から流れる雷力は、おじさんの血流を見付けた。 俺の血を雷力に乗せて、元気おじさんに注ぐと同時に“朱色の血”に変化した血のみを押し出す。 それはおじさんの両目から流れ出て、丸い赤い血珠に変化し足元に零れ落ちた。        .. 蛇達が口にした血珠。 .. それ自体に毒は無い。 ただ、それを持つ者のココロ持ちで変化するんだ。   「俺は……幸せになんかなれない」 言いながら膝から崩れ落ちる。 「一番、幸せになってはいけないんだ」 俯いたおじさんの表情は伺い知れない。   「だけど、空羅寿おばさんはそうは思ってない……幸せにならないと、成仏出来ない」 木の根元の墓石を指差す。 「空羅寿が、居るのか?」 上向いたおじさんの両眼は黄金色に輝いていた。 その瞳には濁りは無く、輝きを取り戻した様に見えた。   「元気おじさんは羅刹の事、どう想ってる?」 無意識に訊いていた。 訊いて、だけど、少しの後悔で胸がざわつく。 落ち着く為に、空を仰いで深呼吸する。  
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