鬼の事情

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   仰ぎ見た空は白みがかり、夜が明け様としていた。月は太陽光に隠される寸前。 月は肉眼では見えなくなったけれど、ちゃんと空には存在している。   空羅寿おばさんも、多分そう言った存在に成ったんだ。   「羅刹?」 おじさんが訊き返す。 「羅刹は、元気おじさんの事が好きなんだよ。本人は自覚してないけど」 俺の口から言っちゃダメだったかもしれない。なのに、嫉妬心から言ってしまった。  「……俺は」 答えは知りたくなくて、踵を返す。   「もう“朱色の鬼”には成らないで」 何度でも羅刹は助け様とする。 その危うさは想像出来る。 羅刹も、羅刹こそ、全てを自分のせいだと思っている。 “千里眼”は良くも悪くも視せつける。 羅刹は自分の前世を忘れている。忘れてると言うか“封印”されてるって言った方がしっくりくる。 なのに、罪悪感とか、負の感情を感覚として覚えてる。   「俺は……幸せになれない。だけど、羅刹には幸せになって欲しい」   背中越しに聞こえた声は、おじさんの本音。 元気おじさんも常に罪の意識を胸の奥底に抱えていた。 それは、前世の母親である後悔と女性の満足感。親としての罪の意識はあるけれど、女性としては満ち足りた人生だったと。 だから余計に空羅寿おばさんの死に様が憐れでならず、幸福感を与えられなかった自分に腹を立てている。 不幸のままで死なせてしまったと……。 そんなの、 「幸せなんて、人それぞれだ。俺は“宗寿”は確かに幸せな人生だったけど、足りないものがあったから転生して来たんだし」   愛する人を見付けたい。 ただそれだけの為に。   人は貪欲に何かを求めて足掻いてる。 何を求めているのか理解しているだけ、俺はましなのかもしれない。  
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