握り返したのは(カミ主)

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 正直な所、彼女は人より可愛いと思う。見た目とかいうのではなく、愛嬌のある笑顔、仕事へのひたむきさ、無償の優しさ……良い所を挙げたらきりがない。何だか花みたいな人だ。飾り気の無い美しさの内に秘められた逞しさが、彼女と重なる。  そんな彼女だから、勿論人から好かれるわけで(ああ、不器用な僕とは大違いだ)。中には友情を越えた思いを抱く者だっている。何だか悔しいよ、どんなに想っても僕は彼女に「ありがとう」すらまともに言えないから。正面からぶつかる事の出来る彼らが羨ましいよ。 「あの、このガーベラ一つ下さい」  ふと、若い女の人が俯く僕に話しかける。人の目を見て話す事が出来ない僕は、俯いたままぶっきらぼうにお金だけを受け取った。直したい悪い癖だと思う。  「ありがとう」と礼を一つ告げ、女の人がガーベラに手を掛けた時だった。僕は無意識のうちに女の人の手を握って、それを阻止したのだ。そうだ、僕の彼女への想いのはけ口は彼女によく似た花であり、その花が他者の元へ行ってしまうのは、僕にとって彼女が他者の元へ行くのと同じなのだ。突然の行動に、納得してしまう。 「あ、あの。カミルさん……?」  慌てて手を離し、謝罪しようと顔を上げたら、言葉が出なかった。困った表情を浮かべるのは、心に想う彼女だったのだから。 「悪い」 「それはいいんですけど、どうしたのかなあって」  「君を渡したくなかったから」なんて言える訳がなくて、代わりに僕はお詫びを口実に君へ花(アイ)を贈る。君によく似た赤いガーベラを。君にだけなら渡したって、悔しくないさ。 握り返したのは (誰にも渡したくなかったからで、)
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