無自覚な恋心(キリ主)

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無自覚な恋心(キリ主)

 馬小屋のハヤテ達が一声鳴くと、アイツがもうすぐやって来る。馬っていうのは賢い動物で、足音で人が分かるらしい。  今日は馬の話をしようと、飼い葉を運んでいた手を止めて気付く。今日”も”の間違いだった。  自分でも正直オレの話ってつまらないと思う。四六時中、馬が馬がハヤテがの繰り返しだ。それなのにアイツは、綺麗な紫の目を輝かしながらオレの話に「もっと聞きたいな」なんて食いついてくる。変わった奴だ。 「キリクさん」  聞き慣れた高い声がして振り向けば、予想通りアイツがやって来た。 「おお、サトか。待ってたぜ」  アイツもといサトは、毎日馬小屋に来ては愛馬ハヤテの餌やりを手伝ってくれる。牧場主なだけあって、彼女は動物の扱いが上手い。もしかしたら、オレよりも馬に好かれているのかもしれない。今だって、四方八方馬に囲まれながら頬擦りされている。 「お前ってさ、本当に馬に好かれるよな」 「キリクさんだってそうじゃないですか」 「そんな事ねえよ」  ハヤテなんか、オレとサトが話しているだけで妬きもち焼いて唸る事をサトは知っているのだろうか。悔しいから、言わないけど。 「何だかなあ。妹の兄離れって寂しいな」  そう溜め息と共に漏らせば、「妹ってキリクさんらしい例えですね」と彼女は小さく笑った。その隣でハヤテも、笑っている気がした。一人と一頭が並んでいると、姉妹みたいだ。 「お前がさ、ハヤテの姉になってくれたらいいのにな」 「えっ?」 何か変な事を言っただろうか。オレは思った事を言っただけなのに、サトは顔を真っ赤にして硬直したまま動かない。 「……それってどういう意味ですか?」 「いや、そのまんまの意味だけど」  言うと、彼女は肩を落とし重たい溜め息を吐いた。 「キリクさん、全然分かってないです」 「え? ちょっと何処行くんだよサト」 「もう知りません」  馬小屋から走り去っていくサトは意外にも早くて、あっという間に居なくなってしまった。急に怒ったサトも、オレを睨むハヤテも、よく分からない。  女って、不思議な生き物だ。 無自覚な恋心 (この無力感を何と呼ぼう)
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