第四話~孤狼の哀歌(塚原一平編)

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 塚原が右腕を力一杯動かす。ブロックしていた龍聖の手下の両手が塚原の右腕から離れた。  塚原は自由になった右半身を左側に反転させて左腕をブロックしている男を殴りつけた。男の鼻から血が吹き上がる。  男は塚原の左腕をブロックする手を離し、鼻を押さえてうずくまった。  塚原は素早く頭を振り、首をブロックしている男に後頭部をぶつけた。そして、左肩の男に肘をぶつける。  塚原の全身が自由になった。龍聖の手下たちが一斉に塚原に襲いかかる。  塚原は一心不乱に拳を振り回した。塚原の突進力は先程以上だった。  塚原は振りかかる火の粉を払うかのように龍聖の手下達を殴り倒しながら突き進む。先程と同じように。  いや、一つ違う事がある。  塚原の中には先程のような刹那的な死への思いはもうない。  あるのは希望に満ちた生への渇望。  塚原は息を切らして龍聖の手下を殴り倒しながら三浦を見た。 ――俺は見てみたい。お前がそこまでして、俺に見せたがってる世界を――  掴まれては振り払い、前方からきた敵を殴り、後ろから殴られ、横から腹を蹴られる。それでも塚原は立ち止まらない。  生きて三浦と二人、ここから脱出するために。
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