第四話~孤狼の哀歌(塚原一平編)

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――1998年3月中旬――  街にはしぶとく北風が残り、大都会神戸の道路は人と車で溢れかえっている。  街はいつもと変わらない。しかし、塚原は変わった。  怪我が完治して退院後塚原は三浦と同じラーメン屋で住み込みで働き始めた。  カウンターの中で頭に黒いタオルを巻いて皿を洗う塚原。  店の引き戸が開く。 (塚原) 「いらっしゃいませ!!」  塚原がドスの効いた声を出す。睨むような目で入ってきたサラリーマンを見た。サラリーマンが怯えた表情で入店を躊躇った。  真面目に働きだしてもこれだけは直らない。こびりついた「なごり」一応言っておくが、塚原に悪気は一切ない。  奥で麺を茹でる色白で面長の男が訛りのある日本語で言った。 「こら塚原。何度言えばわかるか。お客様にはスマイルよスマイル」  店長の李はいつも塚原に怒鳴る。  カウンター内に居る三浦が李の肩を揉んだ。 (三浦) 「まぁまぁ店長。塚原兄貴も今、一生懸命仕事覚えよる最中やから」  塚原は「ふん」と言って口を尖らせる。その表情はかつて孤狼と呼ばれていた頃の面影はなく、まるで子供が拗ねているように見えた。
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