110人が本棚に入れています
本棚に追加
(塚原)
「親父さん。どうやった?」
重い口調で塚原が訊ねると、三浦は優しい微笑みを作った。
(三浦)
「寝てるみたいな……綺麗な死に顔やったわ」
「そうか」と言って塚原は頷いた。三浦の父親が病死したのは一昨日だった。
三浦がテーブルに両手をついて塚原に頭を下げる。
(三浦)
「すまん!!兄貴!!俺からお笑いの世界に誘ったのに俺は辞めなあかんようになってもた」
三浦の家は雑貨屋をしている。兄弟は居らず父親が病死した今、体の弱い母親一人で店を切り盛りしなければいけなくなった。
塚原は脳裏に自分の母親を思い浮かべてみた。
マンション放火事件以来、母親はどこに居るのかわからない。おそらく男の所にでも居るのだろう、と塚原は思った。
お笑い芸人として歩み始めた今、塚原は思う。
あんな母親でもいつか許せる日がやってくる。わかりあえる日がやってくる。
どんな母親でも母親は母親だ。わかりあえるその日まで自分は自分の信じた道を邁進していこう、と。
塚原は三浦の肩にそっと手を乗せた。
(塚原)
「三浦、帰ったれ。おかん助けたれ」
最初のコメントを投稿しよう!