猫仔猫

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「ふぅ…………あだっ」 奇妙な声と共に私はソファーから落ちた。 数秒間何がおきたか理解が出来ず、毛布を抱えてボーッとする。 えっ……と? 「どこも打ちませんでしたか?」 姫島に心配そうな顔でのぞき込まれて、やっと自分の置かれている状況を理解した。 そっか、寝ちゃってたのか。 よくよく考えてみれば、初対面の男の前で堂々と寝るなんて。 年頃の女の子として失格な気がした。 寝顔見られちゃったよね? 姫島は向かい側のソファーに腰掛け、ノートパソコンを開いている。 「お仕事?」 「もう終わりました。 丁度起こそうかと思っていたところです。 晩御飯にしましょうか」 カタカタと何かを打ち込むと、姫島はパソコンを閉じて席を立つ。 私は「はい」と、少しまの抜けた返事を返した。 「そう言えば、名前をまだうかがっていませんでした」 サッ、という効果音が聞こえそうな程に、姫島の言葉で頭の眠気が一気に覚める。 名前。 そんなの考えていなかった。 本名なんて言えるわけがない。 変な汗が背中に溢れる。 どうしよう? 「そうですよね。 野良猫に名前があるはずありませんね。 普通拾った人がつけるものですから」 姫島がほんわか笑ってサラッと口にした言葉に驚く。 というか、その設定まだ有効だったんだ。
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