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強かに膝をぶつけ、一瞬息がつまるも、痛みを堪えて直ぐに立ち上がる。
そして、相手を確認した。
スーツ姿の男。 傘をさしながら屈み込んでいた様で、軽く手をついただけで転んではいない。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。 僕より君の方が派手に転んだでしょう?」
怪我はないかと訪ねながらその男は立ち上がり、さしていた傘を私の方へと傾ける。
いわゆる相合い傘の状態。
男は優しく笑みを浮かべ、怒っている素振りは無い。
「大丈夫、どこも怪我は……」
そこまで口にした時、白い乗用車が男の後を通った。
私は咄嗟に男の陰へ隠れる。
車は直ぐに通りすぎ、あの人のものではなかった事に安堵した。
「あの?」
そう声をかけられて、私は男の存在を思い出す。
「なんでもない。 怪我もないから、もう行きます。 傘ありがとう」
頭から足先までずぶ濡れの自分には無意味だけれど、その優しさがなんだか嬉しかった。
軽く頭を下げて傘を出る。
「えっ?」
また走り出そうとしたとたん、男の手が自分の腕を掴んだ。
そして再度相合い傘状態。
「この雨は当分止みそうにないですよ。 風邪を引いては大変なので、目的地までお送りします」
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