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「結構です。 知らない人にはついていかない、これ常識」
反射的にそう言って断り、男が掴んでいる手を放してもらおうとする。
雨は激しさを増し、私を傘に入れたことで男の肩が雨に濡れた。
「姫島 時都ーヒメジマトキトー、11月12日生まれの蠍座。 会社員をしています」
突然の男の自己紹介に、私はポカンとした表情をかえす。
「これでもう知らない人ではありませんね。
僕の家はすぐそこです。 まずはその格好を何とかしましょうか」
と、後ろのマンションを指差す。
「本当に結構ですから。 私に構わないで」
強引な姫島の言動に、私は不機嫌になる。
整った優しい顔をしているが、先程から浮かべる胡散臭い笑みが気に入らない。
「そうですか。 どうしてもこのまま行くと?」
「そう言ってるじゃないですか」
私の言葉に、姫島時都と名乗った男は軽く溜め息をついた。
それでは仕方がありませんね、と続け
「いたたっ!」
姫島は自身の右肩を押さえ、顔をしかめる。
その一連の行動に、私は訳が分からないという顔で立ち尽くした。
「先程あなたがぶつかってきた箇所が痛みます。 これは病院で診てもらわないと。
治療費、持っていますか?」
「なにを――」
「持っていないのでしたら、警察に連絡して親御さんを呼んでいただきます。 治療費を払っていただかないといけませんから」
姫島は先程と変わり無く微笑んでいる。
それが余計に怖い。
「さてと。 服を乾かして送られる方がいいか、警察に連絡の方がいいか、好きな方に決めてください」
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