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「……大丈夫……?」
真っ白な早桜が手にしていたのは真っ白なハンカチ。
智之の冷や汗をポンポンと拭う。
何時の間にか近付いて来ていた彼女からは薔薇の庭の薫りがした。
「ありがとう……」
「……」
早桜は笑った。
その静かな笑顔を微笑というのだろう。
風に靡いた髪が美しく、また、彼女の儚さを引き立てた。
手が髪に伸びたのは、瞬間、早桜を“欲しい”と衝動に駆られたからである。
ちょうど、依斗と智之が混じり合ったような感じだ。
早桜をもとめた気持ちも、その掬った先に唇を当てたのも、同じ強さの想いだ。
「……貴女が、人の物でなかったなら、私は、もっと貴女に触れられるのに……」
智之は指先に絡まる糸を引き寄せて、泣きそうな顔をした。
早桜は確かにその刹那ーーー恋をした。
お互いに強く惹かれながら、まだ、時は止まったままだった……。
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