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「早桜っ!」
和也の声が聞こえた客間は依斗の部屋より数段豪華である。
そこら辺のアパート一室を遥かに凌ぐ広さは圧巻である。
それだけ早桜が位の高い客であることを物語っていた。
「ごめんなさい……っ」
涙で頬を濡らし、謝る姿に和也がキツく唇を噛み締めた。
繰り返される謝罪は痛々しく、人の声を耳に通さない。
「早桜、大丈夫だから……」
「ごめんなさい……、ごめんなさい……っ」
しゃくりあげる子どものような早桜をやがて言葉無しに抱いた。
和也は早桜の頭をなでる。
恋人を連想させるやり取りに依斗は不思議と違和感を覚えた。
「大丈夫……。早桜は俺が守る……」
「……か……ずや……」
和也が精神安定剤かのように縋る早桜が彼の肩越しに依斗を見た。
真っ赤な目が瞬きをすると微かに微笑んで瞼を下ろした。
一瞬に過ぎないこの出来事が依斗を捉えて離さなかった。
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