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ぐったりとする黒須。全体重を二人に預けていた。
足にも、身体にも、口にさえ力が入らないのである。
日向は自分に黒須を引き寄せて近くにあったベンチまで引きずる。
頭を直接下に置かせたくないという百合子の申し出により膝枕が施された。
日向は嫉妬するが、緊急事態な為、言葉をぐっと堪える。
陽射しに包まれた黒須と百合子はカップルのようであった。
百合子は脂汗の滲む黒須の額を濡れハンカチで丁寧に拭う。
黒須は大人しくしていた。
「……お前……」
「はい?」
「……早桜に似てんな……」
黒須は思ったことをそのまま素直に口に出してみた。
百合子はクスリと笑う。
「親子、ですから」
その微笑み方はたしかに母親の儚さを浮かべていた。
目を閉じればいつでも彼女はそこに居る。
黒須はその小さな事実に、ただ、哀しみの微笑を隠した……。
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