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それは、僕が巡察している時だった。
何やら、川の方が騒がしい。
何かあったのかな。
後ろにいる隊士達もそれに気付いたようで、僕を見ている。
「様子、見てこようか」
「はいっ」
騒がしい方へと歩み寄り、近くにいる人に話し掛ける。
「……あの、すいません。どうしました?」
作り笑いを浮かべると、その人は顔を真っ青にさせた。
「ひっ、壬生狼……っ」
「……どうしました?」
もう一度にっこりと笑ってみせると、顔を蒼白にさせたまま、蚊のなくような声で。
「見慣れない服を着た女子が、流されてて……。ほんのついさっき、皆で引き上げたところです」
「ふーん」
どんだけ間抜けなんだろうね、その女子。
足でも滑らせた?
そう解釈した僕は、人混みをかきわけ、その中心へと辿り着く。
人々は、僕の羽織りを見て慌てて散らばっていく。
そんな光景、何度も見たことあるから何とも思わない。
むしろ、煩いのがいなくなって清々する。
改めて横たわる女子に近付き、しゃがむ。
何とも奇妙な服を着ているくせに、その顔は可愛い。
全身がびしょびしょで、顔色が悪く見える。
僕はその女子を抱き上げると、隊士達に振り向く。
「これ、屯所に連れて行くよ」
「え……?」
口を開けるのも無理はない。
「怪しい奴かもしれないしね」
言うと、隊士は納得がいったようで、すぐさま僕の後をついてきた。
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