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プロローグ
「準備が完了致しました。此方の世界、午後八時に決行可能です」
松明に灯された薄暗い部屋の中、私は足を運ばれた国王の前に跪き現状を知らせる。
「そうか……上手くいけば良いのだが。全てはお前に託す」
王からの信頼の言葉。
普段ならば、その光栄な御言葉に身を震わせ歓喜するだろうが、今回ばかりはその労いの御言葉さえ内心に蔓延る不安を拭い去る事は無かった。
なにせ、今回の召還は国の運命を左右する重大かつ危険な賭けのようなもの……。
国を上げて初となる異世界の咎人の召還だ。
芝を叩いて蛇が出る程度で済む保証など何処にも無い。
しかし、不安など国王に伝わる訳にもいかない。床に手を付き立ち上がり、再び王に深く一礼し部屋の隅に延々と呪文を唱える六人の推敲な魔法使いに命令を下した。
「これより召還の儀を行う! 異世界とこの世界の時の重なる一瞬に、その高き腕と王への忠誠を示せ!」
天井に吊された巨大な振り子時計が秒針を進めるのに合わせ、魔法使いから呪力が溢れ混ざり合い外部と切り離された部屋を濃密に染めていく。
残り十秒前となり、私は腰に下げていた愛刀を抜き国王の前に構える。
一秒がこれほど長いものなのか。
見苦しく震える切っ先を必死に押さえ、嫌な汗が頬をつたうのを拭のさえ無視し、床の石盤に刻まれた魔法陣が呪力に刺激され浮かび上がるのを、瞬きすらせずに睨み続けた。
重々しい鉄の擦れる音と共に長針が零を指した。
それに合わせ、魔法陣は光の柱となり床から時計とを繋ぎ部屋は視界の通らぬ閃光に包まれた。
蛇が出るならそね首を跳ね鮮血に身を染めよう。
龍が出るならこの身を棄て共に滅しよう。
もし、あれになりうる者ならば……私は……。
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