カッターナイフは大工でも必需品である

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 開口部を閉じられた部屋は、広さ奥行き天井高さ全てが靄によって隠され、自分の足元さえ霞んでいる。  こんな一寸先は白な部屋にて、どっかに行ってしまった空気読ま子。  面倒くせぇ。賑わうビーチではしゃいで消えた子供を探すくらい面倒くせぇ。  黙って突っ立ったまま湿るのも釈(シャク)なので、扉を背に真っ直ぐ進みながら湿る事にした。  一歩踏み出すと湿り気を帯びた前髪が額に張り付き、睫毛に雫が溜まる。  冬である。冬島ならぬ冬部屋である。建造された理由が皆無だ。いや、ワインセラーか生物の貯蔵、スチームによる美肌効果。  ……無い。建造された理由皆無だ。  シャツ一枚と薄手のズボン。おまけに足袋と全力で夏着で、全力で冬満開の糞寒い中、全身を湿らせ体温を冷却されながらも、雄々しく奥へと歩み行く。  露出した肌が鳥肌に包まれている事は今は無視する他無い。  こんな時はテンションで乗り切る。  そうだ、偉い人は言った。 『人生冷え冷え、会社も冷え冷え、財布も氷河期』と。寒けりゃ気合いで押し通せと。 「ムハハハハハ!! 我は媚びぬ! 退かぬ! コタツの電源を入れぬ!」  ……何か違う。脳みそがフリーズしているな。二つの意味で。  間違ったテンションのせいで訳の分からない事を叫び、虚しさが心を冷やす。体感も寒い。  つまり寒い。間違い無く。  寒さの表現に『思考が凍てつく寒さ』や『厨二に戻る寒さ』というのを付け足しても良いと思われる。 『今日は西高東低の強い冬型の天気となり、強い北風が吹き所により吹雪き、厨二に戻る寒さとなるでしょう』  ……駄目だ。ニヤケてしまう。  寒さに腕を擦りながらニヤケ顔で進んでいくと、靄の先に赤と青の発光体がうっすらと姿を現した。
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