カッターナイフは大工でも必需品である

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 目標を定め、冷えに固まる体を無理やり可動させ床に溜まる水を跳ね飛ばしながら足早に歩み寄る。  すると、たどり着いた先には空気読ま子が腕を組み、苛立ちを現すよう金持ちのくせに貧乏ゆすりをしながら待ちかまえていた。 「遅い。何をしておった」  人に扉閉めさせて消えた奴が言う台詞かよ。 「迷っただけだ」 「部屋で迷うとは、難儀な方向感覚を持ったものだ」  なんで夢の中でこんなガキんチョロンに喧嘩売られなければならないんだ……。  血の昇る頭を冷やすため軽く息を吐き、視線を空気読ま子の後ろに移す。  …………何だこれは?  其処には、石膏で塗り固められた和式便器のような枠が施され、中には水が浸り光を発する二つの大刀がクロスに突き刺さっていた。  片や燃え盛る火炎のよう赤を主体に黄色やオレンジなどの色が上を向く柄に向かい激しく伸縮を繰り返し、片や氷壁を砕いた欠片のよう凹凸の激しい蒼を主色とした直ぐ刃は、光を反射し緑などの色を作り出す。  反するような二つの大刀は、柄は他の剣と同じ位の太さだが、刀身は持ち上げる事さえ困難な程太く長く、俺の身長とあまり変わらない。  二つの大刀はお互いを牽制するよう赤は浸かる水を激しく蒸発させ、蒼はそれを瞬時に冷却し其処から渦を巻くよう霧が天井に向け噴き上がっている。  とりあえず分かった事は、ここが『霞の裂け目』ではなく『霧の裂け目』と呼ぶべきであるという事だ。 「此処が『霞の裂け目』だ。どうだ、壮観なものであろう」  空気読ま子にとってこの部屋は自慢なようで、無い胸をこれ見よがしに張り俺を見下す。 「そうか、ここが『霞の裂け目』改め『霧の裂け目』か」  俺の言葉に空気読ま子の眉がピクリと動く。
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