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もっと俺にふれて。
もっとその声を聞かせて。
もっと俺を見て。
出会って2年。
俺は未だに彼女を落とせていない。
俺は彼女を落とすため、一人暮らしの家を引き払って、実家に戻った。
恭平には理緒を狙っているように見られて、かなり警戒された。
理緒を気に入ってるのは純兄だろう。
純兄も実家に戻って、飯田家は理緒という家族が増えて6人が住む。
純兄を避ける彼女は恭平の教室にもあまりこなくなった。
彼女がきても、時間的にすれ違う。
俺の目的は果たされることもなく、ただ月日だけが過ぎていく。
秋が過ぎて冬になり、今年もまた新年のご挨拶。
親戚一同様のそれが終わると、俺は今か今かと恭平の生徒たちが挨拶にくるのを待っている。
ニューイヤーイベントは今年もあって、寝不足ではある。
それでも確実、彼女がくると思える日。
眠い目をこじ開けて、たまにこたつに倒れ込む。
思いきりこたつに額をぶつけて家族に笑われる。
「眠いなら無理しないで寝れば?夜から仕事だろ?」
恭平の言葉を欠伸をしながら聞いて、そういうわけにもいかないと手を横に振る。
欠伸は何度も出てくるし、この家族のほのぼのさも眠気を誘ってくれる。
俺は決してこの家が嫌いじゃない。
「こんにちはー」
玄関に聞こえたその女たちの声に、俺の眠かった目はぱっちりと開いた。
着物教室のほうか?
どっちだ?
母親が玄関へ出て、その後を恭平が続く。
恭平の生徒たちのほうだ。
って、どこでどう彼女に声をかけるんだ?俺。
なんて、ぼやぼやしているうちに恭平は戻ってきた。
母親も戻ってきた。
俺は立ち上がって、玄関へ向かい、そこを出る。
行かないと。
会えない。
連絡先なら恭平か親に聞けばわかる。
けど、いかにも狙ってますっていうものを家族に見せたくない。
見せても、今までの俺を知る家族には、なんか教えてもらえなさそうな気もする。
冷たい冬の空気に、寝ぼけた頭も完璧に冴えてきた。
門を出ると、見えた艶やかな着物姿の女たち。
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