Crazy for you?(Kippei)

8/28
前へ
/531ページ
次へ
見た目しか知らないくせに。 そう思っても、彼女ならどんな性格でも受け入れてしまいそうな俺がいる。 か弱くても、気が強くても。 甘えたでも、素直じゃなくても。 出会った夏から1年が過ぎて、俺は忘れられないものを抱えて実家にいった。 彼女の姿を見るまでと、見たら一人暮らしの家に戻ると考えて。 彼女がまだ恭平の生徒でいるかも知らないのに。 けど、いた。 帰ったその日に、俺の好きな、彼女の好きな、その縁側に。 去年と違うのは、正座で。 どこか凛とした佇まい。 去年よりも綺麗になっていた。 「こんにちは。1年ぶり?」 俺は思いきって声をかける。 彼女はその視線を俺に向けてくれる。 綺麗で…。 その目に見られる自分が汚いもののようにも思える。 彼女に似合う男じゃないと、自分のことを思う。 「お久しぶり。桔平ちゃん。今年もここで涼みながら寝るの?」 「…そう。膝枕でもしてくれる?」 甘えて聞いたら、彼女は笑う。 その笑顔に見とれる。 リアルはとても犯せない。 ふれることもできない。 彼女の前では、俺は思春期の中学生にも似たものになる。 興味はあっても手が出せない。 「桔平ちゃんなら、選り取り見取りでしょ?」 「まぁ、モテないこともない。芳乃さんは恭平みたいな童顔が好みなんだろ?」 俺には興味はないんだろ?とは、直接的すぎて言えなかった。 「そうなの。きょうちゃんみたいなかわいいのが好きなのよね。あ、でも、桔平ちゃんは男前よ?」 じゃあ、惚れて。 俺と恋愛して。 …言えればいいのに、軽くなれない。 そんな自分に凹む。 「芳乃さんは美人。よく言われるだろ?」 「そうでもないわよ?誉めてくれてありがとう。お礼に膝、貸してあげようか?」 軽くその膝を叩いて、芳乃さんはなんでもないことのように言ってくれて。 俺はその妄想を思い出して、赤くなりそうになる。 けどっ、いけっ。俺っ。 ここでひいたら、男じゃないっ! 思いきって、本当に彼女の膝を枕に転がろうとした。 そこに聞こえた声。 「姉さん、どこ?芳乃さーん」 恭平の彼女を探す声だった。 「ありゃ。せっかく誘惑していたのに。じゃね、桔平ちゃん」 彼女は立ち上がって、何事もなかったかのように…。 本気、恨む。
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

606人が本棚に入れています
本棚に追加