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見た目しか知らないくせに。
そう思っても、彼女ならどんな性格でも受け入れてしまいそうな俺がいる。
か弱くても、気が強くても。
甘えたでも、素直じゃなくても。
出会った夏から1年が過ぎて、俺は忘れられないものを抱えて実家にいった。
彼女の姿を見るまでと、見たら一人暮らしの家に戻ると考えて。
彼女がまだ恭平の生徒でいるかも知らないのに。
けど、いた。
帰ったその日に、俺の好きな、彼女の好きな、その縁側に。
去年と違うのは、正座で。
どこか凛とした佇まい。
去年よりも綺麗になっていた。
「こんにちは。1年ぶり?」
俺は思いきって声をかける。
彼女はその視線を俺に向けてくれる。
綺麗で…。
その目に見られる自分が汚いもののようにも思える。
彼女に似合う男じゃないと、自分のことを思う。
「お久しぶり。桔平ちゃん。今年もここで涼みながら寝るの?」
「…そう。膝枕でもしてくれる?」
甘えて聞いたら、彼女は笑う。
その笑顔に見とれる。
リアルはとても犯せない。
ふれることもできない。
彼女の前では、俺は思春期の中学生にも似たものになる。
興味はあっても手が出せない。
「桔平ちゃんなら、選り取り見取りでしょ?」
「まぁ、モテないこともない。芳乃さんは恭平みたいな童顔が好みなんだろ?」
俺には興味はないんだろ?とは、直接的すぎて言えなかった。
「そうなの。きょうちゃんみたいなかわいいのが好きなのよね。あ、でも、桔平ちゃんは男前よ?」
じゃあ、惚れて。
俺と恋愛して。
…言えればいいのに、軽くなれない。
そんな自分に凹む。
「芳乃さんは美人。よく言われるだろ?」
「そうでもないわよ?誉めてくれてありがとう。お礼に膝、貸してあげようか?」
軽くその膝を叩いて、芳乃さんはなんでもないことのように言ってくれて。
俺はその妄想を思い出して、赤くなりそうになる。
けどっ、いけっ。俺っ。
ここでひいたら、男じゃないっ!
思いきって、本当に彼女の膝を枕に転がろうとした。
そこに聞こえた声。
「姉さん、どこ?芳乃さーん」
恭平の彼女を探す声だった。
「ありゃ。せっかく誘惑していたのに。じゃね、桔平ちゃん」
彼女は立ち上がって、何事もなかったかのように…。
本気、恨む。
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