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惚れてる。
どうしようもないくらいに惚れてる。
会いたい。
俺の失態、今すぐ忘れて。
新年の親戚一同が集まる新年会には、無理矢理でも呼ばれる。
兄弟全員、紋付き袴着せられる。
その日ばかりは、俺もいつものチャラけた姿でいられず、髪は短くして、黒く染めて。
髭は剃って、完全に正装。
堅苦しい挨拶が終わって、親戚を見送り、ようやく背筋を曲げて胡座をかいて座れる。
一年の始めに毎年、毎年、疲れる。
ニューイヤーイベント終わって、そのまま来て、更に疲れた。
俺は着替えることも面倒で、居間で煙草をふかして、かなりの脱力だ。
夜からまた仕事。
それを考えると、サボってやろうかなとも思う。
そんなところに、新年のご挨拶に恭平の生徒が揃ってやってきた。
玄関先から聞こえてくる会話。
そしてあがってくる足音。
煙草を消して、少しだけ佇まいを整えてしまう俺がいる。
思ったとおり、居間に生徒たちは顔を出した。
美人5人が揃って艶やかな和服姿。
そこにいた恭平に挨拶をしている。
俺の目はその中でも、やっぱり彼女を見てしまう。
「せっかく袴着てるんだから、一緒に初詣いこうよ、恭平ちゃん」
なんて、恭平はお姉様方に初詣にひたすら誘われている。
かわいがられている。
…うらやましい。
「嫌だってっ。おまえら、どうせ、なんか奢れって言うだろ?お年玉くれたらいってやらないことはない。オレ、まだ未成年」
恭平は頷くこともなく。
俺は少し考えて、恭平の肩に腕を回した。
「俺もいく。いくぞ」
言ってやったら、恭平は嫌がりながらも、まぁ、ついてくる。
これでも俺は恭平に少しは慕われているようで。
俺に逆らう恭平はいない。
逆らっても、俺に丸め込まれることを悟っているから。
ということで、俺は俺の目的、彼女と初詣にいくこととなった。
言っても、女は彼女含めて5人もいて。
とても会話ができるようなものでもなかったけど。
少しでも…、一緒にいたかった。
その姿を見ていたかった。
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