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惚れた気持ちを認めるのに1年もかかって。
初詣はあの会話で終わりはしたものの、少しずつ彼女という人を見て。
彼女に似合う男になりたいと思いつつも、自信の欠片もない。
どんなに他の女を軽くひっかけても、それは彼女ではないし、練習にもならない。
『ゲーム』は声をかけられてもしなくなっていた。
彼女と『恋愛』をしたい。
どこからどう始めればいいのかも迷う。
数ヶ月、また焦がれるだけ焦がれて、会うこともなく。
夏に実家に戻った。
恭平には婚約者なるものができていた。
この婚約者がまた美人で。
恭平は女運がかなりいいのではないかと思う。
恭平の婚約者、理緒は俺に妹としてなついてくれて、俺も妹としてかわいがる。
妹はかわいい。
ただ、理緒はそのどこか抜けたところがかわいすぎて、俺をかなり笑わせてくれる。
恭平には理緒をかわいがると嫉妬される。
俺の守備範囲ではあるけど、今の俺に想う女がいることも知らないからだろう。
障子を開け放って、畳の上に転がって。
時折吹く風に心地よく眠る。
元旦より伸びた髪が風に揺らされて、瞼の裏に彼女に頭を撫でられている妄想を浮かべる。
犯すよりも。
そんな妄想が心地いい。
恭平と理緒のように、この家で彼女と暮らしたい。
そんな俺の夢。
「桔平ちゃん」
彼女の声が耳に聞こえたような気がして目を開けると、縁側からこっちを見ている彼女がいた。
いつものように和服姿。
まとめあげた髪と、綺麗な背筋の佇まい。
焦がれる想いで彼女を見つめて、求めるように腕を差し出すと、彼女は笑って俺のそばに座ってくれた。
「起こしちゃった?」
「起きてた。…膝枕…して?」
「甘えてる」
「…甘えたい」
彼女の膝に頭を擦り寄せると、彼女の手は俺の髪を撫でてくれた。
妄想かリアルかもわからない。
でも心地いい。
その綺麗な指先。
「…猫みたいね、桔平ちゃん」
「猫?…狼かもよ?」
「そう?私には牙が見えないのだけど。着物教室の女の子には狼なの?」
しっかりと覚えられてる。
もう去年の話なのに。
「それ、忘れて」
「そう言われても、生チュー見たの初めてだもの。忘れられそうにない」
俺は言葉をなくして、彼女の顔を見上げる。
彼女は俺に笑顔をくれる。
対象外…だなと思わせられる。
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