606人が本棚に入れています
本棚に追加
何をどう声をかけるか迷った。
迷ったけど、今を逃して、次に会えるその日がいつになるかもわからない。
もしかしたら二度と会えないかもしれない。
「芳乃さん」
俺はその名前を呼んだ。
女たちは振り返り、芳乃さんは俺に会釈をする。
「桔平ちゃん、あけましておめでとう。きょうちゃんが出てきてくれちゃうから、挨拶していなくてごめんね」
彼女はいつものように言ってくれて。
「芳乃、それ違うでしょ?」
「そうよ、芳乃ちゃん。桔平ちゃんがわざわざ追いかけてきて、芳乃ちゃんに声をかけるんだから」
なんて、俺の目的、まわりの女たちのほうに気がつかれてる。
俺はあまりにも俺らしくないことをしでかして、頭を抱えて喚きたくなる。
本気で恥ずかしい。
なのに、彼女はというと、笑って否定してくれてる。
それも…嫌だけど。
「初詣、いかない?二人で」
俺はがんばった。
彼女以外なら軽く誘える。
彼女だから、そんな誘いもがんばらないとできない。
彼女は驚いたような顔を見せて。
彼女よりも、まわりが彼女をおいて逃げるようにいなくなる。
いいような、悪いような。
まぁ、いい女たちだとは思う。
20代も後半のくせに、まだ一人として結婚していないようだけど。
それを口にすれば非難されまくりそうだ。
俺は芳乃さんと二人で、近くの神社へ向かって並んで歩く。
「…私、新年から狐に摘ままれたようなんだけど?お稲荷様に挨拶しなきゃ」
「…そんなに意外?」
「だって桔平ちゃん、モテるでしょ?私、自慢じゃないけど、モテないわよ?職場が女ばかりというのもあるけど」
「どんな職場?何してる?」
「そういえば、もう3年目のおつきあいなのに、私も桔平ちゃんの仕事知らない。私は秘書課。社長は女友達だけど。一応、秘書」
「俺は…言いたくない」
言おうとしてやめた。
軽く見られそう。
確かに遊んでいたけど。
彼女に軽く見られたくない。
「なーに?お水?桔平ちゃんなら似合いそう」
言わなくても軽く見られているし…。
「クラブDJ」
「なに?ちょっとかっこよくない?」
「かっこいいか?」
「…更にモテていそう」
まるでモテる男に興味はないと言われたようだ。
モテる、は、誉められている気はしない。
最初のコメントを投稿しよう!