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俺の知らない彼女のことは多いし、彼女の知らない俺のことは多い。
その程度しか、この数年で会話をしていないとも言える。
「携帯、教えて?」
俺はめげずに言って、彼女は更に困惑したような顔を見せる。
なんとなく、ようやく、俺が芳乃さんを狙っていることに気がついてくれたような気がする。
彼女が鈍いのか、俺があからさまに出していなさすぎたのか。
彼女は俺の携帯にそのアドレスと番号を送ってくれた。
これで…、彼女が恭平の生徒として家に来なくても話せるようになった。
ここまでくるのに、俺、時間かけすぎだろ。
何ヶ月どころか、何年って…。
自分に呆れつつも、がんばってよかったとも思う。
神社でお参りをして、おみくじなんかをひいて、と、初詣デート。
こんなデート、初めてしたような気がする。
俺のひいたおみくじは大吉だった。
彼女がひいたのも大吉で、この神社、大吉しか出ないようになっているんじゃないかとも思う。
「……『待ち人来る』。今年こそ良縁か…。うむ」
彼女はぶつぶつとおみくじと睨みあってる。
俺はあまり見ることのない、そんな彼女の様子を見て、思わず吹き出して笑う。
笑ったら、彼女は俺を不満そうに見てきた。
「やっぱ花嫁修行でもあるの?お茶とお花」
「一応は。彼氏も短大出てからいないし、気がつけばもう20も後半だし。まわりは結婚して子供できた子もいるし。少しは焦るわよ?」
「…ねぇ?芳乃さん。俺のことどう思う?」
聞いたら、彼女は俺を見上げる。
何もわからないといった目で俺を見る。
答えは聞くまでもない。
対象外。
だけど。
「俺と結婚しない?」
俺は言葉をそう続けた。
我ながら、本当に唐突すぎた言葉だと思う。
初めてのデートでなにかましてやがると、人から聞けば言いそうだ。
というか、初めてのデートと言えるのかも疑わしい。
そんな場所で、しかも元旦から。
……それでも、俺はそれでいいと思えた。
恋愛なんてものは俺はしたことがない。
その先に行き着くものが結婚なら。
彼女が望むものが結婚なら。
それを前提に俺を考えて。
この人生、惚れたのは、彼女だけ。
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