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結婚して落ち着きたいとか、そういうことは考えていなかった。
遊びも今じゃ、昔に比べれば落ち着いているようなもの。
『ゲーム』はしかけられても乗らない。
俺の心の真ん中を掴んだ彼女しかいらなかっただけ。
彼女からは、すぐに返事はもらえるはずもなく、俺から考えておいてと、話をきった。
それでもようやく伝えたものに、どこか興奮して目が冴えて、眠ることもないまま仕事にいって。
朝にはさすがに睡眠不足でダウンした。
店でそのままソファーで眠らせてもらって、ひたすら眠って起きると体の節々は固まって痛い。
伸びを思いきりして、コートのポケットの中の携帯を手にして時間を見る。
眠りすぎ。
もう夕方だ。
あと何分かすれば、誰かが店にくるだろう。
彼女のアドレスがそこにあるのを見て、夢ではなかったと思う。
俺はそのまま初めて彼女にメールをする。
簡単な挨拶。
おはよって、それだけ。
基本、メールはしないし、メールをうつことも俺にはめずらしいけど。
彼女にはわかるはずもないだろう。
顔を洗って、寝癖だらけになった髪に水をつけて。
店の誰かの私物ワックスを拝借して、髪を整える。
元旦には毎年のように黒くなって、短くなる髪。
黒染めが落ちた頃に色を抜いてる。
彼女の黒髪を思い出すと、黒いままでもいいような気がする。
頭だけ軽く見られたいのに、俺自身まで軽く見られるのも微妙だ。
今は…軽くもない。
彼女の待ち人が俺であればいいと願うだけ。
携帯が着信を告げて見てみると、彼女からの返信で。
一言、おはよ。
俺はそれを見て、彼女の姿を頭の中に描いて、思わず口許が緩む。
惚れてる。
かなりの勢いで、更に惚れた。
仕事もやる気が出てきて、俺はブースへとかけあがると、客もいない店内に、今、俺が彼女に聴かせたい曲を大音量でかけてやる。
I can't take my eyes of you
俺は君に見とれてる。
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