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彼女からいい返事がもらえなくても諦めるという選択肢は俺にはない。
俺に諦めさせたいのなら、彼女以上の俺が惚れることのできる女を紹介して、というくらい。
メールをすれば、彼女は返事をくれる。
俺のメールなんて、会話にもならないようなものなのに、絶対に一言でも返してくれる。
仕事も休みの夜、メールの返事を見て、俺は初めて彼女に電話をかけた。
コールは2回で繋がった。
「こんばんは」
「…今から?」
彼女はメールの会話、そのままのように聞く。
「そう。今から。デート。…いや?」
「けっこう強引」
「……いやなら…いい」
俺は暇してるという彼女のメールに期待していたぶん、少し沈む。
会いたいだけ。
それだけ。
「いいよ。迎えにきてくれる?」
「もちろん。車でいくし、ドライブでもしよ?」
「運転好き?」
「まぁまぁ。遠出する?」
俺は聞きながら、家を出る支度を整えて、車庫へと向かう。
「あー、いいな。遠くにいきたい気分」
その言葉の意味、少しだけ考えはしたけど。
「連れてく。無駄に海沿い走り続けようか?安全運転のスピードで。朝まで」
「飛ばしそうなのに、飛ばさないの?」
「うーん…。事故って芳乃さんに怪我させたくないから」
「…優しいね、桔平ちゃん」
「芳乃さんにはね」
「他の子には?」
「野獣」
俺は恭平が俺をそう呼ぶことを思い出して答える。
彼女は電話の向こうで笑う。
そんなに遠くない、彼女の一人で暮らす家に迎えにいって、彼女を車の助手席に乗せる。
彼女は和服でもなく。
落ち着いた色合いの大人の女性を感じさせる服で。
髪もおろしていて、どこか別人のようで、また見とれてしまった俺がいる。
うん。美人…。
本気、参るくらいに彼女ばかり見てしまう。
「桔平ちゃんと和服以外で会うのは初めてよね?そんなにめずらしい?」
俺が見すぎていることに気がつかれて聞かれて。
俺は視線を慌てて逸らす。
妄想よりもリアル。
緊張してしまいそう。
鼓動が主張する。
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