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「いい加減に起きろ。何回も同じ事を言わせるな」
「だからよー…。俺、朝弱ぇんだってば…」
早朝のマンションに、気持ちを爽やかにさせる(筈の)小鳥の囀りが響き渡る。
僕の名はクリス・クラインハインツ。クリスと呼ばれている。
片手でネクタイの位置を調節しながら、もう片方の手でのそのそと寝室から出てきたアレク目がけ、大きなカーキ色のジャケットを投げつけた。
「さっさと服を着るんだ」
「服を着ろって…人を裸みたいに言うなよな。
別に寒くねぇんだからいいだろ、これで」
「見てるこっちが寒いんだよ。隣を歩く僕に恥をかかせるつもりなのか?」
もう季節は12月に差しかかったと言うのに、この男は半袖のシャツ一枚で平気な顔をして過ごしている。
男の名はアレク。アレク・サンデル。同じ孤児院で育った、僕の怪盗仲間…と言ったところか。
燃えるような緋色の髪に、がっしりとした身体つき。その長身と腕力、武器の知識ゆえに戦闘能力は申し分ないほどに高い………のだが。
反面、性格は楽観的・脳天気で驚くくらいに単純。
簡単に言うと、馬鹿だ。
「行くぞ。待ち合わせの時間に遅れる」
僕は最高級カシミアのロングコートを着こなし、駐車場に向かって階段をテンポよく降りた。
このニューヨーク郊外のマンションに引っ越してきてから、延べ1週間。外観こそ古びているものの、内装はリフォームされていて綺麗で住み心地は良い。
まだ荷物の整理が完全には終わっていないから、部屋は多少散らかっているが(と言うより、僕が片付けても片付けてもアレクの奴が散らかす)
運転席に座り車のキーを差し込んだところで、アレクが小走りで追いついた。
「俺が運転するぜ?」
「いい。お前の運転は乱暴過ぎてこっちの身が持たない」
「へーへー。悪かったね乱暴で」
アレクがシートベルトを締めたのを確認して、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
向かう先は、ニューヨーク市内でも賑わいのある街。ミッドタウンのタイムズ・スクウェア。
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