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待ち合わせている人物は、僕達に有用な情報を流してくれる『情報屋』こと、フリードだ。
裏の界隈を知り尽くしているであろうフリードは味方でありながら謎の多い人物で、フリードと言う名前も本人曰く偽名らしい(仕事の内容によって名前を変えているんだと)
…この僕ですら、未だに掴めない相手。
――…ラジオから聴こえる気に入りのジャズポップに耳を傾けながら運転している内に、ミッドタウンへと近付いた。
セダンを駐車し、腕時計の針を確認する。何とか待ち合わせ時間には間に合ったようだ。
タイムズ・スクウェアは繁華街と呼ばれているだけあって、カラフルな看板やネオンサイン・オブジェ・高層ビルが犇めき合っていた。
この時間は沢山の屋台が軒を連ねていて、辺りには食欲をそそる匂いが漂っている。
屋台の食べ歩きが、ニューヨークの醍醐味のひとつとも言えるだろう。
「うおー、どれも美味そうだ!クリス、飯にしようぜ」
「そうだな。朝食がまだだった」
「お前何食べるんだ?」
「僕はベーグルにする」
「おっ、ニューヨーカーだねぇ。クリス君」
食事の話になるとたちまち元気になるアレクは、生き生きとした顔つきでベーグルを焼いている屋台へ近寄った。
…が、何かに気付き、物凄いスピードで隣の屋台へと瞬間移動した(ように見えた)
「これは…!
なぁクリス!俺はこっちにする!」
まるで飼い主に餌を与えられる時の仔犬のように目をキラキラさせ、ガラスのショーケースに張り付くアレク。
その中には生クリームやカスタード、色とりどりのフルーツをふんだんに使った可愛らしいスイーツが並べられていた。
アレクはこんな図体でありながら、甘いものに目がない。
そんなアレクの姿を見て、周りにいた女性達が好奇の視線を向けている。
…これは、まずい。
「お前、朝っぱらからそんな甘いものを食べるのかよ」
「甘いものは別腹だ!」
「馬鹿、そう言う問題じゃ…」
「おっちゃん、この柔らかそうなシフォンケーキとシュークリームと、それから…」
「アレク…!」
僕達は目立ち過ぎてはいけない。アレクはただでさえ目立ちやすいのだから余計にだ。
(自分が怪盗だと言う自覚が足りなさ過ぎる!)
本気で制しようとした僕の肩越しに、聞き慣れた低く染み渡る美声が。
「じゃあ俺は、そっちのスフレをもらおうか」
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