第一章「追い込まれた男」

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 簡単に身なりを整え、スリ対策でポケットに深く財布を忍ばせると、努は部屋に鍵をかけて外へ向かった。ロビーを出ると、街へと歩き出す。今日は、日本人街にでも行ってみよう。安くて、何が入っているかわからないサンドイッチではなく、久々に和食を食べたかった。それに、日本人に紛れて孤独を紛らわせたかった。  努がスペインに来てから、もうすぐ一ヶ月が経とうとしていた。高校卒業と同時に、学校や親の反対を押しきって貯金を下ろし、パスポートを手に入れ、部活の仲間達からのカンパを得て、なんとかスペインにやって来た。しかし観光ビザの為、このままぐずぐず所属先を決められずにいたら、日本に追い返されてしまう。それだけは、是が非でも避けたかった。強制帰国になったら、呆れながらも送り出してくれた仲間達に、会わせる顔が無かった。
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