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割り箸を割り、温かい蕎麦を口に運ぶと、努の頬を涙が伝った。嫌だ。サッカー選手という夢を、諦めたくない。どんな環境でも構わないから、サッカーを続けたい。飲み下した蕎麦が腹を温めるたび、その思いが努の胸の中で暴れまわり、その度に涙を袖で拭かざるを得なかった。
「何を泣いているんだい?」
泣いている? 俺のことか。努は、後ろから掛けられた日本語の、声の主を探した。やがて、焦点は一人の男に絞られた。中年の日本人で、小太りではあるが、瞳の深い目をしており、温厚そうな雰囲気を醸し出していた。
「何か、問題でもあったの? スリにでもやられたとか」
「いえ。そうでは、ないのですが」
「しかし、その泣き方だとよほどのことがあったんだろう? 言ってみなさい」
男は、そう言うと努の隣の椅子に、腰を下ろした。
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