24人が本棚に入れています
本棚に追加
春風が強く吹き日差しが暖かくなった頃、親の仕事の関係で、住み慣れた街を離れ、新たな街に移り住む事となった。
少年は車の窓に寄りかかり、外の風景を眺めていた。
建物が並ぶ街から離れるにつれて、徐々に住宅が減り、見慣れない風景は、気持ちを表すかのように、どこか寂しい気持ちにさせた。
山道に入り、しばらく車に揺られていると、桜が満開に咲いている道に出た。
車を道路脇に停め、父親と母親は車を降りて桜の花を眺めた。
少年も一緒に車から降りた。
ほのかに香る桜の匂いと、まだ少し冷たい自然の風を大きく吸い込むと
「花びらが付いてる」
と母親が頭に付いた花びらを取ってくれた。
「ねぇ、あとどのくらいで着くの?」
少年が聞くと
「もう30分くらいかな」
父親が背伸びをしながら答えた。
再び車に乗り込むと、ゆっくり車は走り出した。
車が進むにつれて、今度は景色の中に、住宅が増えてきた。
車は大きな道を外れて、細い道に入り、急な坂を上ると、大きなアパートへ着いた。
「ほら、ハル。着いたよ」
母親の声で、手持ちの荷物を取り、車を降りた。
大きな荷物は引っ越しの業者が運んだため、小さな家具の配置をしなければいけなかった。家具の配置が終る頃には、日も暮れて、辺りはすっかり暗くなっていた。
父親と母親に連れられて、両隣の部屋の人に挨拶を済ませると
「お腹空いたことだし、ご飯食べに行こうか」
と言って駐車場へ降りて、車に乗った。
運転は母親に代わって、近くのレストランへ行った。
珍しい魚の泳ぐ水槽があり、少年は夢中になって眺めていたら、料理が並び、呼ばれたので席に戻りご飯を食べた。
食事を済まし、3人はアパートに戻った。
階段を上ると、同じくらいの年の女の子が階段を降りてきた。
「こんばんは」
と少年が挨拶すると
「…こんばんは」
と小さな声で挨拶してきた。
「えっ?」
母親は驚いた顔をして少年の顔を覗き込んだ。
部屋に戻ると、引っ越しの疲れからか、布団に入ってすぐ眠りについた。
最初のコメントを投稿しよう!