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「はい。それじゃあ、右手を上げて」
「はい」
医者に言われた通り右手を上げる。
「次はこのボールペンの芯を出して自分の名前を書いてみて」
「はい」
僕は芯を出し名前を書く。
「異常なしか」
医者は困ったように首を傾げる。
「ユウト、お前零さんの事は覚えてるか?」
「零さん?誰だそれ?」
「覚えてないのか?」
「新君どういうことだ教えてくれ?」
説明を求める医者に夕夏と新は険しい表情で説明をした。
多分僕に関係することを言っているんだろうけど何を言ってるか分からなかった。
『そんなはずはないだろう』
え?…………頭の中で声が……
『お、やっと聞こえたか』
誰?君。
『俺?俺は……………だ』
え?
『だから!…………だ』
駄目、聞こえない。
『じゃあ、しょうがないか』
「ユウト!ユウト!」
「はい?」
「はい?じゃあないわよ。花咲姉妹のこと忘れちゃったの?」
「花咲姉妹?誰ですか?」
「っ!」
パン―――
渇いた音が病室に響く。夕夏の平手打ちが雄仁の頬を叩いた。
「………ごめんなさい」
夕夏はいつも脱線した僕を正しい方向に戻してくれる。だから今回も夕夏は正しい。なにが正しいかわからなけどきっとそうなんだ。だから謝った。
「そう、冗談じゃないのね」
夕夏は唇を強く噛み締め必死に涙をこらえた。
「うん。たぶんこれは部分的な記憶喪失だな」
「部分的な記憶喪失?」
医者の言葉に首を傾げた。
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