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時は流れ。
少年、アルベインはその日15歳の誕生日を迎え、緑豊かな自然に包まれた故郷の村において、成人の日を迎えることとなった。
外界から切り離された土地は、若者からみれば窮屈な環境であったが、アルベインはそれを苦にすることなく、自ら率先して村に尽力していた。
その働きは村の者全てが知るところであり、だからこそ彼の成人の祝いという事で、その催しのために奔走する人々の表情には、生き生きとした感情が見え隠れしていた。
そんな人々の心意気を目の当たりにしたアルベインは、それをありがたく思いつつも、主賓だからと手伝いを断られたことで、手持ち無沙汰となってしまっていた。
自宅の庭の軒先に腰掛けながら、ぼんやりと空を眺めていたアルベイン。
そんな彼に、たまたま通りかかった同年代の男が、気さくに声を掛けた。
「よぉ、アル。随分退屈そうな顔してんな」
「退屈だからな」
悪気のないからかいに苦笑しつつ、正直に答えを返すアルベイン。
いつもと変わらない物言いに肩を竦めて見せる男。年の同じ幼馴染みのパートは、自分が抱えていた荷物を下ろし、大きなため息を吐いた。
その様子を見たアルベインは、若干眉を寄せて首を傾げた。
「……お前も主賓の筈だろ?」
「家でゴロゴロしてるならお前も手伝えって、母ちゃんに追い出されてな。こうして、外回りの仕事を手伝っている、って訳さ」
パートが抱えていた荷物は、畑で収穫されたばかりの野菜類の山だった。
成人の祝いの席で振舞われる料理に使用されるものだろう。一人で持つには、少々骨の折れる量であった。
「何なら手伝うぞ。どうせ暇を持て余していたし、お前一人だけ働かせるのも悪いだろう」
「…いや、どうやら先客のようだぜ?」
不意に視線を反らしながら告げるパート。
その視線を追うと、家の影から顔だけを覗かせている少女と、目が合った。
少女は慌てて、顔を引っ込める。
「………………おい。何で隠れるんだ、リブラ」
アルベインが呆れ顔で少女の名を呼ぶと、渋々と言った様子で、少女が姿を現した。
同い年の、もう一人の幼馴染みの少女、リブラだった。
「…だって。取り込み中だったみたいだし…」
そう言いながら寄ってくるリブラに、アルベインは若干の違和感を覚えた。
どうも、何かを避けている様子が見受けられるのだ。
(…気のせいか?)
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