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結局、その疑問を口にすることは出来なかった。
それよりも先に、パートが口を開いたからである。
「さて、お邪魔虫は退散するとしようかねぇ」
足元に下ろした荷物を拾い上げると、返事も待たずにスタスタと歩き始めてしまった。
「お、おいパート」
「また後でな、アル………………リブラ」
言葉の間に開かれた、僅かな躊躇。その小さな切っ掛けが、アルベインの中の疑問に組み合わされた。
(リブラが避けていたのは…パート? だが、何故だ?)
思い当たる節はない。少なくとも、二人の間に何かあるような話を耳にした覚えはなかった。
ただ一つ思い出すことがあるとすれば。それはここ最近、3人で顔を合わせた記憶がない、ということだった。
「あの、アル君」
深い考察に入りかけたアルベインは、その問い掛けに意識を現実に引き戻した。
「ん? ああ、何だ?」
「成人おめでとう。日頃お世話になってたから、これだけは自分の口から伝えたくて」
普段と変わらない穏やかな微笑を浮かべて、リブラは祝辞を述べた。
その様子から、先程の気掛かりは気のせいだと思い直し、若干引き攣った笑顔で答えを返した。
「ありがとう。とはいえ、何が変わるって訳でもないけどな。村を出るって訳でもなし」
考え無しに呟いた一言に、リブラの表情が強張った。
その唐突な変化に戸惑うアルベインだったが、その疑問を口にするより早く、リブラは縋るように身体を近付け、懇願する。
「…もしも村を出ることがあったら。アル君は、私も連れていってくれる?」
「…いきなり何だ。ただの例え話だろう」
都心より離れ、自給自足で生計が成り立つこの土地では、外へと足を運ぶ機会は殆どない。そもそも、外界へ興味を示すこと自体が珍しい程であった。
だからこそ、冗談のつもりで口にした言葉対しての過剰な反応には、違和感を覚えざるを得なかったのである。
「…うん。そうだよね、この村を出て行くなんてこと、無いよね」
あからさまに気落ちした様子を見せるリブラの様子に、アルベインの疑念が一つの核心へと変わった。
「…パートと、何かあったのか?」
率直な一言に、リブラの表情が驚愕に歪む。心の内が顔に出るのは、昔から変わっていなかった。
「……ううん、何でもない。ホントに…何でもないの」
いかにも何かありそうな様子で首を振るリブラ。
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