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こうなった彼女を語らせるのは骨が折れると、付き合いの長いアルベインは頭を抱えた。
「…そうか。ならせめて、その景気の悪い顔を何とかするんだな」
「……ゴメン」
アルベインの言葉に、更に俯いてしまうリブラ。会話の応酬は止まり、沈黙が場を支配する。
先に口を開いたのは、リブラの方だった。
「…昔。私の事、嫌いになったりしないって、言ってくれたよね」
俯いた顔からは、その表情を読み取れない。アルベインはしばし黙考し、頷いた。
「…ああ。よく覚えていたな」
実際、アルベインはその事実を覚えていた。それは自分が答えを出すことを恐れた、逃げの記憶だったからだ。
それをリブラが覚えていた。この事実が、アルベインに一つの答えをもたらした。
(要するに。俺が逃げ回っていたそのツケを、払うときが来たってことか…)
そんな彼の考えを裏付けるように、リブラは俯いたまま、言葉を紡いだ。
「…まだ。私を好きになってくれないの?」
彼女はずっと待っていたのだろう。
一途な想いを絶やすことなく、傍らで微笑みながら。自分と向き合うことから逃げていたアルベインを、その弱さを含めた彼を、求め続けてくれていたのだ。
(…つまり俺が躊躇した分、パートに余計な負担を強いちまってた、ってことなんだな)
これまで胸の内に留めていたリブラの想いが溢れた原因に、ようやく思い至る。
パートはアルベインより先に答えを出し、そして伝えたのだ。
時間さえも、逃げ道を残してくれない。答えをはぐらかすことは、もう出来ない。
「私は、アル君が好き」
幼き日と同じく、はっきりと告げられた言葉。その表情が悲壮に歪む以外は、すべて変わり無い状況である。
アルベインは深呼吸のように大きく息を吐くと、改めて真っ直ぐにリブラを見据え、今度は目を反らさない。
「…あれからずっと、心の奥で考え続けていた。俺がお前をどう思っているのか。情けない話だが、自分でもよく分からなかったんだ」
一旦言葉を区切り、伝えるべきことを整理する。リブラは何も言わず、静かに次の言葉を待った。
「当たり前過ぎたんだ、リブラ。お前と一緒にいるのが…だから、自分がどういう思いでお前の隣にいるかなんて、考えもしなかった…というのは、言い訳だな」
アルベインはそう言いながら、ゆっくりとリブラに近付いていく。
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